Therapist-Works

現役心理士がお伝えする心の健康に関する情報発信ブログです!

知能検査―知能ってなぁ~に?

 前回は知能を集団と比較した際に生じる差異でどのような現象が生じるかをお伝えしました。

今回は、知能にはどのような能力があるのかをサクッとお伝えします。

 

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もくじ

 

知能検査への誤解

まず、みなさん。知能検査は何を測定しているかご存知ですか?

「それ前も言ってましたやん。」と思う方…ご愛読ありがとうございます。

そう、知能検査は知能指数を測定するものであることをお伝えしましたね。

 

ではここで質問です。皆さんが想像する知能検査は「すべての知的能力を網羅していますでしょうか?」

 

この答えはNoです。

 

実はこれまで多くの知能検査が開発されてきましたが人間の知的能力をすべて測定することのできる検査は標準化(統計的な処理がされ信頼性や妥当性が一定の水準で確保されているもの)されていないのです。

 

このことでわかってくることがひとつあります。

それは「知能検査で出されるIQは実はすべての能力を評価した数値ではない。」と言うことです。

このポイントを踏まえて今回は知能の種類についてお伝えします。

 

ちなみに、これはあくまでも一個人の意見ですが、知能検査の結果が思っていたものとは違っていても、測定できていない能力においては多くの可能性が秘められていることになりますので数値に惑わされないことが大切だと強く感じています。

 

 

様々な能力

では、ほかにどのような能力があるのでしょうか。

まずは下の図を見てください。

 この図は「全体的な知能」と「知能検査が測定している知能」の比率を図式化したものになります。

 

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大きな円が知能全体を表しており、その円の中に「CHC理論」という枠があり、さらにその円の中に「知能検査(代表的な)」が包括されています。

 このことから、知能検査は知能全体の何割かを測定していることがわかります。

 

では、CHC理論とは何なのでしょうか。

 

 

CHC理論-1

CHC理論とはキャッテル-ホーン-キャロルの三人の学者が提唱した知能理論を統合したものになります。

 

現在、知能に関する理論はこのCHC理論が最も有力とされています(詳細はまた後日お伝えしていきたいと思います)。

 

しかし、この理論が「知能全体」そのものをすべて包括しているかどうかの議論には決着がついていないのが現状です。

 

ですが、知能の構造を把握するためには大変有益な情報を与えてくれます。

今回はこのCHC理論から知能について見ていきましょう。

 

 

 

CHC理論-2

CHC理論では、知能(全般的知能と仮定)には多くの能力が存在していることを仮定し、それらを大まかなグループに振り分け10の因子を抽出しています。

 

10の因子は以下の通りになります。

流動性知能/推論Gf 

  頭の回転の速さに関する能力

・結晶性知能/知識Gc 

  言語の理解や一般的な知識に関する能力

・認知的処理速度Gs 

  単純な課題に対して素早く正確に解くため

       の能力

・視空間能力Gv

  目で見た情報の、知覚・分析・貯蔵・検

       索・操作・思考に関する能力

・短期記憶Gsm

  与えられた情報を数秒間保持し、その後取

       り出すことに関する能力

・長期貯蔵と検索Glr

  与えられた情報を一定期間保持し、長期記  

       憶から取り出すことに関する能力

・聴覚的処理Ga

  耳から入る情報の、知覚・分析・統合・差

       異の検出に関する能力

・決断/反応速度Gt

  刺激に対する反応や決定の素早さに関する

       能力

・量的知識Gq

  量・数についての情報や操作に関する能力

・読み書きGrw

  言葉の読みや流暢性、書きに関する能力

 

(なお、「量的知識Gq」と「読み書きGrw」については学習による定着であるとみる意見もあり知能ではないとの見解を示す学者もいます。)

 

このようにグループ分けされた能力をあげるだけでも種々のものがあることがわかります。

 

 

それぞれの能力は独立したものではない

これらの能力はそれぞれが相互に作用し合う関係にあります。

 

例えば、算数のプリント問題を解く際には、問題を確認し(視空間能力Gv)、それらの情報を頭のなかで留め(短期記憶Gsm)、問題を正確に解いて(認知的処理速度Gs)いく必要があります。そして、その際には数に関する知識(量的知識Gq)が必要となります。

 

このようにひとつの工程を見るだけでもいくつかの能力が関与していることがわかります。

 

 

同じように課題をこなすことが難しい場合

例題のようにひとつの作業をこなしていくためにはいくつかの能力が必要となりますが、どれかがかけてしまうだけでも遂行は困難になってきます。しかし、なかには各能力間に得意・不得意の差があることで困難さを抱えてしまう人が多くいらっしゃいます。

 

そのような方に対しては

 

  1. 別の能力で困難さを補う(スキル獲得も含む)
  2. 苦手な能力の向上を図る
  3. 苦手な作業を取り入れない
  4. 環境を変容させていく

 

などの工夫をすることで困難さを解消していくことが大切になっていきます。

これは困難さを抱える本人だけでなく、周囲の人たちも理解を示し協力していく姿勢が求められます。

 

特に③と④では周囲の人たちによる協力が必要となりますが、周囲の人が困難さを抱える人と相談し、その人が健康に活動できるよう様々な工夫をしていく取り組みを「合理的配慮」と言います。

 

法律のなかでもすべての人の人権が尊重され公平に関わらなければならないことが保証されています。

 

その一人ひとりの特異さは知的な側面からも理解することができます。

 

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まとめ

現在、知能を代表する理論に「CHC理論」がありますが、知能全体を表現しているものであるかは議論が続いています。しかし、知能を理論で説明することにより人の知的活動を詳細に把握し適切な支援が展開できるようになってきています。

 

困難を抱える人に対しては「個人による取り組み」や「周囲の人や環境による取り組み」を総合的に行うことが適切であると考えられており、困難を抱えた人が適応的に活動できるよう社会全体で取り組んで行く姿勢が求められ、そのような流れを「合理的配慮」といいます。

 

一人ひとりには自分らしく生きていく権利があります。

一人ひとりの権利を尊重し公平な社会を協力して作っていくことが大切になります。

 

 

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