知能検査-WISC-Ⅳについて②
前回よりWISC-Ⅳの説明に入りました。
引き続き検査の内容についてお伝えしていきたいと思います。
WISC-Ⅳで用いる5つの指標
WISC-Ⅳでは全検査IQ(FSIQ)を含む、言語理解指標(VCI)、知覚推理指標(PRI)、ワーキングメモリー指標(WMI)、処理速度指標(PSI)の5つの指標得点を算出し、認知の特性を把握していくことを前回お伝えしました。今回は各指標の詳細についてまとめていきたいと思います。
全検査IQ(FSIQ)
FSIQとは測定した下位検査を用いて、その人の総合的な知的水準を算出します。
大変重要なポイントとしては「全検査IQ(知能指数)=その人のすべての能力」ではないというところにあります。
後述しますがWISC-Ⅳにおいても知的機能すべてを評価しているわけではありません。能力の一部を数値化しているに過ぎないので、結果の数値が高いからと言って能力的に優れているとは限らない点に注意することが必要です。
WISC-Ⅳでは認知機能や情報の入力・出力に関する能力を中心に測定しているとされています。(ちなみに「認知機能」とは理解、判断、論理といった知的な活動を指します。)
またこの指標は、下位検査間や、指標得点間でばらつきが小さい時には正確かつ有効な指標として扱われますが、その逆で指標得点間や特定の指標とFSIQ間に大きな差がある場合は多角的な解釈が必要になってきます。
言語理解指標(VCI)
VCIでは言語概念形成、言葉の推理力/思考力、言語による取得知識などを測定します。
この項目は、言葉の理解(聞く、読む)、表現(話す、書く)、推論(言葉による推理)などと関連していると考えられています。
知覚推理指標(PRI)
PRIでは非言語による推理力/思考力、空間処理、細部への注意、視覚-運動の統合などを測定します。
この項目は、視覚情報の処理、ルールの発見、見通しを立てる、応用する、分類やパターンの理解、図や地図の読み取り、数量関係の把握や数学的思考などの能力に関連してくると考えられています。
ワーキングメモリー指標(WMI)
ワーキングメモリーでは聴覚的ワーキングメモリー、注意/集中などを測定します。
この項目は、読み、書き、推論の弱さ、注意散漫、聞き間違いによる誤解や思い込み、複雑な計算問題、行動制御や実行機能(遂行機能)などの能力に関連してくると考えられています。
処理速度指標(PSI)
処理速度では視覚刺激の速い正確な処理力、注意・動機づけ、視覚的短期記憶、筆記技能、視覚-運動の協応などを測定します。
この項目、板書の書きとり、素早く課題を終わらせる、せかされても正確にしょりすることができる、などの能力に関連してくると考えられています。
CHC理論との関係①
WISC-Ⅳでは全検査IQを含めた5つの指標を用いていますが、以前お伝えしたCHC理論とはどのような関係になっているのでしょうか。
CHC理論では知能は10の因子(研究者によっては16の因子)分けられ、各因子ではさらに限定的な能力に分けられていることを以前お話しました。
WISC-Ⅳの全検査IQを含めた5つの指標は、CHC理論の5つの因子に対応していると考えられています。
CHC理論とWISC-Ⅳとの関係は以下の図のように説明されます。
各因子については以前の記事をご参照ください。
▢で囲まれたものがWISC-Ⅳで用いられる指標で、〇で囲まれたものがCHC理論の因子になります。
CHC理論との関係②
CHC理論では10の因子(研究者によっては16の因子)が想定されていることから、WISC-ⅣではCHC理論が仮定する4割~5割の能力しか測定していないことがわかります。
しかし、ひとつの指標を見るだけでも様々な能力が関係しているため、単純な解釈で済ませてしまうのは大変安直です。
数値が高い低いのみで理解することは適切ではなく、多角的な視点から解釈を進めていく姿勢が求められます。そのためにWISC-Ⅳではプロフィールを分析するプロセスが規定されています(詳細は省略します)。
まとめ
・全検査IQはその人のすべての能力を測定しているわけではない。
・結果の数値が高いからと言って能力的に優れているとは限らない
・ウェクスラー式知能検査では、認知機能及び、情報の入力・出力に関する能力を中心に測定し、認知の特性を把握する。
・数値の高い低いという単純な解釈をするのではなく、多角的な視点から結果を分析して理解していくことが大切(プロフィール分析など)。
引用参考文献
・日本版WISC-Ⅳテクニカルレポート
ひろくん@心理士(神経心理学)/@kuroro0829