適応行動について -環境に適応していくためには-
前回は「環境への適応」について各概念をまとめそのプロセスを考えました。
今回は環境へ適応していくために求められる様々な能力(スキル)をまとめていきたいとおもいます。
もくじ
コミュニケーション
人は言語(非言語)を介して意思の疎通を図ります。
そのためには
- 言語(非言語)を受容/理解すること
- 言語(非言語)を表出すること
- 文字の読み書き
などの能力が必要となります。
相手と話をしていて叱責されている理由がわからなければ理不尽に怒られていると感じるだろうし、自分が言いたい感情をうまく言葉にできなければ苛立ちは強くなります。このように言語に関する能力は人間社会に置いて重要度の高いものとなっています。
日常生活スキル
日常を円滑に過ごすためのスキルも欠かせません。
- 食事や衣服の着脱をはじめとした身辺の自立
- 炊事や洗濯といった家事
- 地域の施設や資源を利用する
といった能力が挙げられます。
ごく当たり前のように思われるこれらの活動も、実は環境に合わせて獲得された適応スタイルになります。引っ越し先で役所やスーパーはどこにあるのか、そこに向かうにはどのような手段が必要で利用できるのかといったことを上手くこなしていけなければ生活は苦しくなってしまいます。
社会性
人間関係を形成し、円滑に維持するための能力を「社会性」と言います。
一般に「環境への適応」と言われるとこの社会性をイメージする方も多いと思います。
- 他者に対して適切な対応ができる(対人行動・関係)
- 集団の中で協調的に行動できる(集団行動)
- 周囲から好意を受けたい認められたいといった欲求をもつ(社会的要求)
- 周囲の変化や流行といった時代の情勢に関心を寄せる(社会的関心)
- 遊びや余暇を十分に取り入れプライベートな時間を充実させる
- 直面するストレスに対して健康的に対処するためのコーピングスキルを駆使できる
などなど社会性は概念としての幅が広いため捉えずらい所もあると思いますが、対人場面における適応を考える際には中核的な存在となります。
身体の運動スキル
身体の運動スキルは適応において基礎となると考えられます。
- 粗大運動
- 微細運動
- 道具の扱いや作業の遂行
対話や移動するための筋力、物を上手に扱うための巧緻性、物を使い課題をこなす作業能力など、生活の基盤には身体の運動が不可欠になります。
環境は複雑
以上のように様々な能力を用いて人は環境に適応してくと考えられています。
その一方でこれらの能力は独立して求められるものではなく、同時並行的・複合的に求められます。
会話場面を想定しただけでも、言葉を上手く扱うための発声(身体の運動スキル)、自分の考えを的確に表現する・相手の意図を読み取る(コミュニケーション)、他者に興味関心を持ち建設的な対応が求められる(社会性)などの能力を使っていることがわかります。
そのため、環境に適応していくためにはいずれの能力もバランスよく習得し発揮していくことが大切となると考えられます。
Vineland-Ⅱ適応行動尺度について
上記に上げた能力を客観的に把握するためのアセスメントツールにVineland-Ⅱ(ヴァインランド・ツー)適応行動尺度という心理検査があります。
この検査では対象者の適応行動の発達水準を幅広くとらえ(どのような/どの水準にある適応行動ができるのか)支援計画を作成する際に有意な情報を提供してくれます。
補足になりますが、現在の「知的能力障害」の診断定義は「発達期における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害」とされています(DSM-5より)。
そのため、知的障害や発達障害の人たちの支援を考える際は、知的機能(IQ)の評価に加えて、適応行動を把握することがゴールデン・スタンダードとして認知されてきており、Vineland-Ⅱをはじめとする適応状態を評価するアセスメントツールと知能検査との検査バッテリーが重要となってきていると考えられます。
まとめ
- 環境へ適応するための能力は多くあり代表的なものでは「コミュニケーション」「日常生活スキル」「社会性」「身体の運動スキル」などが挙げられる。
- 環境に適応していくためにはいずれの能力もバランスよく習得し発揮していくことが大切となる。
- 知的障害や発達障害の状態を理解するのは、知的な側面だけではなく、環境への適応状態を評価することも重要である。
引用参考文献
・引用参考文献「有斐閣 心理学辞典」
・HP 日本文化科学社 Vineland-Ⅱ適応行動尺度
ひろくん@心理士(神経心理学)/@kuroro0829